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英語は1つの単語に複数の意味があることが多い。
例えば、bookの基本的な意味は「本」だが、動詞では「予約をする」の意味になる。英語を学習しているあなたは、これら多義語を覚えるのに苦労していないだろうか?
実は、一見バラバラに見える多義語の意味には関連性がある。中心的な意味と拡張された意味のつながりを知れば、丸暗記をせずとも多義語を覚えることができる。
この記事では多義語が使われるメカニズムと、覚え方の詳細を解説していく。多義語に対する疑問が解決するはずだ。
*多義語とは関連する複数の意味を持つ語句
多義語はなぜ存在するのだろうか。私たちは多義語からどんな恩恵を受けているのだろうか。
多義語が生まれる仕組みと、意味のつながりについて述べていこう。
*多義語が使われる理由
私たちは日常生活の中で、新しい物事を発見したり、既存のものを新しい視点で捉えたり、あるいは外の世界から新しい事物を取り入れる、といった行為を日々行っている。
新しい物事には名前が必要だ。かつて「携帯電話」と呼ばれていたものが、機能とデザインを一新させた結果「スマートフォン」と名付けられたように、新しい事物は新しい言葉によって表現されるのが一つの方法である。
一方、日常の些細な出来事も含めて、すべての事象に単一の名称を与えると、語句の数が無限に増える結果になりかねない。仮に「1つの単語 = 1つの意味」の世界があれば、ことばを使うのに膨大な記憶力が必要になるだろう。
そこで、人間は新しい事象に出会った時、既存の語句の意味を拡張させることで、新しい語句を作らずにそれを表現する能力を備えた。例えば、コンピュータの「ウイルス」は機械の中に細菌がいるわけではないが、コンピュータを破壊するプログラムと風邪のウイルスが類似しているため、このような名称で呼ばれるように至った。
多義語はこのようにして、誰かが既存のことばを別の意味で用いた後、その用法が他の人にも使われるようになり、最終的にその解釈で定着した結果である。豊かな言語表現が可能なのは、多義語があるおかげなのだ。
*多義語は意味のつながりを理解すれば覚えられる
多義語は無関連な意味がランダムに付与されるわけではない。多義語には中心的な意味があり、それが様々な解釈で拡張することによって作られる。
英語の多義語の例として、passの意味を考えてみよう。
『英語多義ネットワーク辞典』によれば、この語句の中心的な意味は「(人や乗物などが)場所を通る」である。これが拡張されて「物を場所に通す」、「人・乗物が関所を通る」、「人・国が状況を通る」、「時間が通り過ぎる」などの意味で使われる。
拡張された用法はさらなる拡張を生む。「時間が通り過ぎる」は、「(人がこの世を)通り過ぎる = 死ぬ」や「(災害・危険などが)なくなる」といった意味でも使用される。
このようにして、passは10以上の意味を持つ語句となった。passの意味を図にすると次のようになる。
つまり、多義語を効果的に覚えるには、意味のつながり理解すれば良い。中心の意味と拡張された意味の関連性を知れば、暗記に頼ることなく、自然と多義語を覚えられるようになるだろう。
多義語の形成にはいくつかのパターンがあるが、その代表が意味の類似性、意味の伸縮性、意味のずれである。1つずつ見ていこう。
1. 意味の類似性によって生まれる多義語
「若い番号」といった表現があるが、「番号」は生き物ではないから年を取れない。
それでもこの表現が許容されるのは、「若さ」と「小ささ」に似た点があるから、番号が若いのは数が小さい、といった解釈が可能だからである。
英語でも同様に、類似性は多義を生み出す。3つの例を見てみよう。
run
- 0.(人・動物が)走る
- 0-1.(動物・足などを)走らせる
- 0-2.(動物などが)逃げる目的で走る
- 0-3.(人・動物が獲物や犯人を)追って走る
- 0-4.(羊などが)走る場所/飼育場
- 1.(人・動物が)競争で走る
- 1-1.(人・動物を)競争で走らせる
- 1-2.(人が)選挙で走る/出馬する
- 2.(乗物が)走る
- 2-1.(乗物を)走らせる/運行する
- 2-2.(人が楽しみ目的で)車で走る
- 2-3.(乗物などが)走る道
- 2-4.(機械などが正常に)走る/動く
- 3.(液体が)走る/注ぐ
- 3-1.(場所が液体で)溢れる
- 3-2.(人が液体を)走らせる/流す
- 3-3.(色などが)流れる/にじむ
- 3-4.(燃料などが)流れる/使い果たす
- 3-5.(言葉・輪などが紙面上を)走る
- 4.(視線・感覚などが)走る
- 4-1.(視線などを)さっと走らせる
- 4-2.(道・植物などが)走る
- 4-3.(ストッキングなどに伝線が)走る
- 5. (物事が)走る/(噂が)伝わる
- 5-1.(物事を)走らせる/(事業などを)経営する
- 6.(人・物がある状態に)走る/(好ましくない状態に)なる
(出典: 英語多義ネットワーク辞典)
runの中心的な意味は「(人・動物が)走る」で、そこから様々な拡張的な意味が生じている。
乗物が動くのは人が走るのに似ている。液体が流れるのも、物質が動くという点で似ている。人や物が特定の状態に変化する様子も、何かが動いていると捉えれば走る動作と類似している。ここから、runは様々な事物が動く様子に使われる。
runには「経営する」の意味もある。これは「人や動物を走らせる→物事を走らせる→会社を走らせる = 経営する」といった拡張が起こったものと考えられる。
- He runs every morning. (彼は毎朝走っている)
- The river runs into the Pacific Ocean. (その川は太平洋に注いでいる)
- She runs a beauty parlor in Tokyo. (彼女は東京で美容室を経営している)
(出典: ジーニアス英和辞典 第5版)
(筆者注: 「経営する」に関して、「人や動物を走らせる→物事を走らせる」は類似性による拡張で、「物事を走らせる→会社を走らせる」は意味のずれによる拡張)
digest
- 0.(食物を)消化する
- 0-1.(食物が)消化する
- 1. 知識・情報を消化する
- 2. 知識・情報を吸収しやすくまとめる
- 2-1. 抽出された要点/要約・ダイジェスト
- 3. 不快な物事を消化吸収して消し去る
(出典: 英語多義ネットワーク辞典)
digestの中心的な意味は「(食物を)消化する」で、そこから知識や情報を消化する、といった拡張的な意味が生じる。
また、カタカナ語でも「ダイジェスト」というように、digestは名詞で「要約」の意味もある。これは「食物を消化する→情報を消化する→抽出された要点」と解釈されるからだろう。
- Most babies can digest a wide range of food easily. (ほとんどの赤ちゃんは多種多様な食べ物をたやすく消化する)
- I struggled to digest the news. (私は一生懸命そのニュースを理解しようとした)
- That magazine is a weekly digest of all the important news and issues. (その雑誌はすべての重要なニュースと関心ごとの週刊ダイジェストだ)
(出典: ジーニアス英和辞典 第5版)
(筆者注: 「ダイジェスト」に関して、「食物を消化する→情報を消化する」は類似性による拡張で、「情報を消化する→抽出された要点」は意味のずれによる拡張)
ticket
- 0. 乗物・入場の切符
- 0-1.(乗物・入場などの)チケットを販売する
- 1. 交通違反切符
- 1-1.(人・車に)交通違反切符を切る
- 2. 商品につける札/値札
- 3. 公認候補者名簿
- 3-1. 公認候補者名簿の根拠となる政策
- 4.(成功・名誉への)切符/(成功への確かな)方法
- 4-1. (成功・名誉への)切符を発行する/方法を与える
(出典: 英語多義ネットワーク辞典)
ticketの中心的な意味は「乗物・入場の切符」で、そこから「交通違反切符」、「値札」、「公認候補者名簿」、「(成功への確かな)手段」などの意味が生じる。
「交通違反切符」は乗物の切符と形が似ていることから生じたと考えられる。
また、「成功への切符(方法)」は、チケットはどこかに入場する「手段・方法」であるように、人生で成功するには何らかの手段が必要ということだろうか。
- I obtained two tickets to the World Cup final. (ワールドカップ決勝戦の切符を2枚手に入れた)
- A policeman gave me a ticket for speeding. (警官は私にスピード違反の切符を切った)
- the ticket to success (成功への近道)
(出典: ジーニアス英和辞典 第5版)
2. 意味の伸縮によって生まれる多義語
「お花見に行く」という時、その対象はチューリップでもコスモスでもなく、桜を指す。また、「ご飯を食べる」の対象は白米に限らず、食事一般を指しても良い。
このように、一般的な意味が特殊な意味で解釈される(例: 花見→桜)、あるいは特殊な意味が一般的な意味で解釈される(例: ご飯を食べる→食事を取る)といった意味の伸縮がある時、語句の意味は多義になる。
case
- 0.(出来事・状況の)個々の事例
- 0-1. 実際に起こった事例/事実
- 1. 犯罪の事例
- 2. 訴訟の事例
- 2-1. 訴訟での一方の側の主張/論拠
- 3. 病気の事例
- 3-1. 病気などの人/患者
(出典: 英語多義ネットワーク辞典)
caseは「個々の事例」という一般的な意味が、「犯罪の事例」、「訴訟の事例」、「病気の事例」などの特殊な意味に拡張されるケースである。
意味解釈は文脈によって異なるが、どれもネガティブなニュアンスを持っているのが興味深い。
- In Sandra’s case, the reasons are less easy to pinpoint. (サンドラの場合には、理由を正確に特定するのは容易ではない)
- He has followed the criminal case for ten years. (彼は10年間その刑事事件を追ってきた)
- win a case (勝訴する)
- emergency cases (急患)
(出典: ジーニアス英和辞典 第5版)
dish
- 0. 料理を盛るための皿
- 0-1. 洗うべき皿
- 0-2. 皿状のもの
- 1. 皿に盛られた料理
- 1-1. 料理のようにおいしそうな女性
- 2. 料理を皿に盛り分ける
- 2-1.(物・非難・忠告などを)小皿に取り分けるように分け与える/罰を与える
(出典: 英語多義ネットワーク辞典)
dishは「料理を盛るための皿」という特殊な意味が、「洗うべき皿」という一般的な意味に拡張される。
「皿に盛られた料理」は、視点が「皿」から「お皿の上の料理」に移った結果である。「料理を皿に盛り分ける」は、「料理」という動作に視点がある。
- a wooden dish (木製の皿)
- I’ll just do the dishes before we go. (行く前に私が皿を洗ってしまいましょう)
- the main dish (メインディッシュ)
(出典: ジーニアス英和辞典 第5版)
3. 意味のずれによって生まれる多義語
私たちは「鍋を食べる」と言うが、それは鍋の表面をガリガリとかじるわけではなく、実際は「鍋の中の具材を食べる行為」を指す。このように、指示対象のずれによって語句の意味は多義になる。
board
- 0. 板
- 0-1. 特別な用途の板/黒板・掲示板・まな板
- 0-2.(窓などに)板を張る
- 0-3. 板のように厚みのある
- 0-4. 板状の配線板
- 1. 板に足がついたテーブル
- 1-1. テーブルで行う食事
- 1-2. テーブルで行う会議/委員会・評議会
- 2. 板張りの舞台
- 3. 乗物の板張りの床
- 3-1.(飛行機・列車などに)乗り込む
(出典: 英語多義ネットワーク辞典)
boardの中心的な意味は「板」で、blackboard(黒板)、scoreboard(得点表)などの複合名詞としても使われる。
「委員会」の意味があるのは、「板→テーブル→テーブルで行う会議→委員会」と意味がずれていった結果である。
また、「乗り込む」の意味があるのは、かつて列車の底面が木の板だったから、「板→板の上に乗り込む→列車に乗る」と意味がずれたからだと考えられる。
- a floor board (床板)
- a bulletin board (掲示板)
- He is on the board of directors. (彼は取締役です)
- board a train (列車に乗り込む)
(出典: ジーニアス英和辞典 第5版)
fine
- 0.(人・物事の質が)すばらしい
- 0-1.(天気の質が)すばらしい
- 0-2.(貴金属・空気・水などの質が)すばらしい
- 1.(人・物事の状態が)まったく問題ない
- 1-1. 人の体調がまったく問題ない
- 2.(糸・髪・線などが)とても細い
- 2-1. 布の肌理が細かい/目の詰まった
- 2-2. 物事が細かい/デリケートな
- 3. ご立派な
(出典: 英語多義ネットワーク辞典)
fineの中心的な意味は「すばらしい」で、ここから「問題ない」の意味が生まれる。
織物は糸が細かいほど上質だから、織物の「すばらしさ」は「糸が細い」を連想させる。さらに、その類似性から「物事が細かい」へと変化する。
- a fine view (すばらしい眺め)
- feel fine (気分が良い)
- a fine hair (細い髪)
(出典: ジーニアス英和辞典 第5版)
green
- 0. 緑の
- 0-1. 緑色の物
- 0-2. (物の色を)緑にする
- 0-3. (人の顔色などが)緑色で不健康そうな
- 1. 緑の植物の
- 1-1. 緑の植物
- 1-2.(場所を)植物で緑にする/緑化する
- 1-3.(記憶・心が)緑の葉のように生き生きとした/若々しい
- 2. (植物の実が)緑色で未熟な
- 2-1. (経験などが)未熟な
(出典: 英語多義ネットワーク辞典)
greenの中心的な意味は「緑」であり、その指示対象がモノにずれることで「緑の物」、行為にずれることで「緑にする」となる。
- green paint (緑色のペンキ)
- a green apple (青りんご)
- a green crew member on a ship (新米の船員)
(出典: ジーニアス英和辞典 第5版)
goは「行く」を表す語句だが、「目的地への移動→実現したい意図→未来」へと意味が変化しつつ、文法的な性質を帯びることで、未来を表す助動詞be going toでも使われるようになった。
4. 多義語は意味のネットワークを作る
これまで議論したように、多義語は主に意味の類似性、意味の伸縮、意味のずれによって生じるが、これらはいずれか1つだけが作用しているわけではなく、実際は複数の要素が同時に起こることが多い。
ここから、多義語は中心的な意味をもとに意味のネットワークを形成すると考えられる。ある意味は中心義から拡張し、別の意味は拡張された意味がさらに拡張した結果である。
*まとめ
この記事では英語の多義語について紹介してきた。
内容をまとめると次のようになる。
- 多義語は意味のつながりを理解すれば覚えられる
- 意味の類似性は異なる事象の似た点に注目をすること
- 意味の伸縮は一般から特殊、あるいは特殊から一般へと変わること
- 意味のずれは指示対象が隣接するものに変わること
- 多義語は意味のネットワークを形成する
多義語に意識が向くようになれば、英語を使った表現の幅がぐっと広がる。スピーキングはもちろん、ライティングでも説得力のある文章を書けるようになるだろう。
学習の参考になれば幸いだ。
Good luck!